知識編:虫と地球環境

3-3 人間活動の昆虫への影響ーソーラーパネル・夜間光・農薬-

昆虫は地球上の生態系において重要な役割を果たしています。受粉、土壌の改良、有害生物の制御など、昆虫が提供する生態系サービスは、私たちの生活基盤を支える不可欠な要素です。しかし、近年の研究では、昆虫の個体数・バイオマス・種多様性が世界的に減少していることが明らかになっており、この世界的な昆虫減少は生態系に深刻な影響を与えるとされています。その原因の一つとして挙げられるのが、人間活動による環境変化です。ここでは、ソーラーパネル、夜間光、農薬という3つの具体例に焦点を当て、それぞれが昆虫に及ぼす影響について考察します。

①ソーラーパネルと昆虫の関係

図3-3-1 ソーラーパネルは環境にいいのか?

昆虫の減少は、食物網や生態系サービスに甚大な影響を及ぼす可能性があります。昆虫は、植物の受粉者、害虫の天敵、分解者として重要な役割を担っており、その減少は植物の繁殖、農業生産性、土壌形成などのプロセスに悪影響を及ぼします(Dirzo et al., 2014)。昆虫はまた、鳥類や小型哺乳類など他の動物の主要な食物資源であるため、昆虫の減少はこれらの動物群にも連鎖的に影響を及ぼします。
一方で、全ての昆虫が減少しているわけではありません。一部の農地に適応した種や外来種は個体数を増加させており(Wagner et al., 2021)、淡水昆虫については、特に水質改善の施策が進んだ地域で増加傾向が見られます(van Klink et al., 2020)。しかし、これらの増加はごく一部の種に限定されており、全体の減少傾向を覆すものではありません。
 昆虫の減少は「千の傷による死」に例えられるように、単一の原因ではなく、複数の要因が複雑に絡み合った結果です(Wagner et al., 2021)。特に熱帯地域における長期的なデータ不足が問題視されており、昆虫の減少傾向を明らかにするためには、さらなる調査とデータの蓄積が必要です。

②夜間光と昆虫

図3-3-2 都市の光害.

人工的な光は、昆虫にとって大きなストレス要因で、光害の一つです(図3-3-2)。街灯や看板のライトが昆虫を引き寄せる現象はよく知られていますが、これが引き起こす影響は単に物理的な衝突や熱による死亡に留まりません。夜行性の昆虫にとって、人工光は行動パターンを狂わせる要因となり、生殖や捕食行動の妨げとなります。また、光に集まる昆虫が捕食者に狙われやすくなるため、生態系全体のバランスが崩れるリスクもあります。特に蛾や夜行性の甲虫類は、光害の影響を強く受ける傾向があります。さらに、光害は昆虫と植物との相互作用にも影響を与えます。例えば、夜間に受粉を行う昆虫が人工光によって活動を抑制されると、植物の繁殖成功率が低下する可能性があります。このように、光害は昆虫だけでなく、その存在に依存する他の生物にも広範囲な影響を及ぼします。

③農薬の影響

図3-3-3 農薬の散布も環境負荷を高める.

農薬は農業生産において欠かせないものである一方、昆虫にとって最も直接的な脅威の一つです。特にネオニコチノイド系殺虫剤は、ミツバチやハナバチなどのポリネーターに深刻な影響を与えることが知られています。これらの農薬は神経系に作用し、方向感覚の喪失や行動異常を引き起こし、最終的には個体の死亡やコロニー崩壊を招くことがあります。さらに、農薬は目に見えない形で昆虫に影響を与えています。土壌や水路に流れ込んだ農薬が環境中で長期間残留することで、昆虫の生息地全体が汚染され、非標的種(農薬の対象外となる昆虫)への影響が広がります。これにより、生態系全体の昆虫群集が変化し、多様性が失われる結果となります。

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