知識編:虫と文化

2-5 菰と害虫駆除

図2-5-1 菰を巻く様子.

有名な庭園を冬に訪れると,木に腹巻のように藁が巻かれているのを見ることがあります。もちろん,木が腹巻をしているのではありません。藁を編んだ「菰(こも)」を幹に巻き付け荒縄で縛ったもので,「菰巻き」といいます。日本の冬の風物詩です(図2-5-1)。
 菰巻きは江戸時代から大名の庭園などで行われてきた害虫の駆除方法で,マツカレハ(松毛虫)の幼虫を除去することを目的としています。マツカレハの幼虫は,松の葉を食害する昆虫で,幼虫は10月下旬ころになると枝先から根際,土に近い狭い場所に潜伏して越冬する習性を持ちます。越冬のために枝先から降りてきたところに菰があるとその中で越冬するので,春にその菰を外して処分することで害虫を駆除するという方法です。伝統的には二十四節気の霜降のころに設置し,啓蟄のころに取り外します。
江戸時代から続く害虫防除について,近年その効果を検証した結果(新穂ら,2007他)が発表されました。この研究結果によれば、菰巻きの筵に集まったマツカレハはわずかであり、害虫の天敵(=益虫)となるクモやヤニサシガメが大多数を占めたとされています。マツカレハは幹の溝などで多くみられるとの報告もあるようで,菰を外して燃やして処分すると益虫を殺してしまう可能性が高いとの結果でした。
そうであれば,益虫の越冬場所(越冬用インセクトホテル)として活用できないかと考えたのが,私たちの「伝統家屋式越冬用インセクトホテル」です。他にも古くから天敵への効果や材料に関する研究は行われており,北海道では害虫アメリカシロヒトリの幼虫や蛹に対して,大きな効果が出ているとの報告もあります。昆虫相のバランスや生態系への負荷も考えつつ,生き物の越冬場所を提供するのもいいかもしれません。

北海道森林管理局檜山森林管理署.五稜郭保安林におけるアメリカシロヒトリ防除に向けたこも巻きの実施. 2025年1月4日閲覧
新穂千賀子、中居裕美、村上諒、松村和典(2007)姫路城のマツのこも巻き調査,日本応用動物昆虫学会大会講演要旨51:pp.54.
新穂千賀子,中居裕美,村上諒,松村和典.姫路城のマツのこも巻き調査(2002年-2007年).日本生態学会全国大会ESJ55講演要旨.2025年1月4日閲覧
吉村仁志、木上昌己、矢野宏二(1995)バンドトラップで捕獲されたマツ害虫とその天敵昆虫とクモ:こも巻き法の再評価,昆蟲 63(4):pp.897-909.

知識編

知識編:インセクトホテル

インセクトホテルとは?生物文化多様性とは?この教材の基本的な考え方について説明します。

知識編:虫と地球環境

身近なはずの虫が,いつの間にか減っている⁉人間活動と地球環境の変化との関係を,虫をきっかけに見つめ直してみましょう。