知識編:インセクトホテル
インセクトホテルとは?生物文化多様性とは?この教材の基本的な考え方について説明します。
日本の古民家は、実は自然との共生の象徴的な存在です。木や土、茅(かや)といった自然素材で作られたこれらの建物は、多くの生物にとって魅力的な生活空間を提供してきました(図2-3-1)。その一例がハチ目昆虫です。茅葺屋根の茅や木の隙間は、ハチたちの営巣に最適な環境で、古民家周辺では様々な種類のハチが確認されています。
例えば、川崎市の日本民家園で行われた調査では、102種類ものハチ目昆虫が確認されました。その中には、都市部ではほとんど見られなくなった種や、古民家がなければ生息が難しい種も含まれています。たとえば、寄生バチであるシリアゲコバチや、茅葺き屋根を利用するミツバチ科のツツハナバチなど、貴重な種が確認されています。その多くが古民家の茅葺屋根や竹筒に巣を作り、幼虫のエサとなるクモや他の昆虫を集めています(渡辺ら, 2020)。特に、古民家の構造が提供する隙間や乾燥した環境は、ハチたちにとって理想的な住処です。さらに、これらのハチは単に巣を作るだけでなく、他の昆虫を捕食したり、寄生したりすることで、生態系全体のバランスにも貢献しています。
しかし、現代の生活様式の変化に伴い、古民家の数は急激に減少しています。また、コンクリート建築の増加や自然環境の変化が影響し、こうしたハチたちの生息環境も失われつつあります。古民家に生息する「里蜂(さとばち)」と呼ばれる種類の中には、現在では絶滅の危機に瀕しているものも少なくありません。
このような中、古民家を保存し、その周辺の環境を守ることは、ハチ目昆虫をはじめとする多くの生物にとって重要です。ハチたちは、古民家という人間の暮らしと深く結びついた環境を利用することで生き延びてきました。一方で、私たち人間もハチたちによって庭の害虫が減るなど、恩恵を受けています。このような「生物文化多様性」の関係は、自然と人間のつながりを再確認する上で非常に貴重です。
古民家は単なる歴史的建築物ではなく、生物の多様性を育む場でもあります。これらの建物を保存することは、地域の文化や伝統だけでなく、自然との調和を取り戻すための重要なステップです。古民家を訪れる際には、目に見えない小さな命たちがそこに息づいていることを感じながら、その価値を改めて考えてみてはいかがでしょうか。
参考文献
渡辺恭平, 川島逸郎, 関悦子. "川崎市立日本民家園における調査で得られたハチ目昆虫." 神奈川県立博物館自然科学報告, 49, 119-143, 2020
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