知識編:虫と文化

2-2 日本の暦

虫が土の中から出てくることを意味する「啓蟄」という言葉があります。これは一年を二十四に区分する二十四節気という伝統的な暦の一部です。今の暦の3月5日ごろにあたります。土の中から出てくるというのはなぜかといえば、冬ごもりをしていたからです。昔の人たちは、多くの虫が土の中などで冬を越すことを、観察してきちんと知っていたことがわかりますね。
二十四節気のほかに、一年を七十二に区分する七十二候という暦もあります。二十四節気で虫に関連するのは「啓蟄」だけですが、七十二候には「啓蟄」と同じ意味である「蟄虫啓戸」(3月5日ごろ)のほかに、「蟄虫坏戸」(9月28日ごろ)という暦もあります。「蟄虫坏戸」は一般に「むしかくれてとをふさぐ」と読みます。冬の訪れに備えて、虫が土の中に潜り込んで戸締りをするころ、という意味です。実際には9月28日には虫たちはまだ冬眠しないと思いますが、この時期から次第に虫が冬ごもりに入っていくと考えられていたに違いありません。
さて、七十二候にはいろいろな虫が登場してきます。次の七十二候は、いつごろを指すと思いますか。

図2-2-1

  • (1)菜虫化蝶(なむしちょうとなる)
  • (2)蛙始鳴(かわずはじめてなく)
  • (3)寒蝉鳴(ひぐらしなく)
  • (4)蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)
皆さんの実際に見たり聞いたりした虫たちの生態から考えてみてください。青虫(菜虫)がチョウになるのは、カエルやヒグラシが鳴きだすのは、キリギリスが家の近くに現れるのはいつごろでしょうか。
七十二候によれば、青虫がチョウとなるのは、3月15日ごろです。カエルが鳴き始めるのは5月5日ごろ、ヒグラシが鳴き始めるのは8月12日ごろ、キリギリスが家の近くで鳴き始めるのは10月18日ごろとされています。皆さんの実感と一致したでしょうか。
二十四節気も七十二候も、もちろん、実際には南北に長い日本の自然をぴったり網羅的に表現できるものではありません。科学的に行われる桜の開花予想ですらはずれることがあるのですから、大昔から変わらず使われている二十四節気や七十二候は年ごとに、そして地域ごとに、さまざまな形で生物の実態からずれてしまうのも当然です。しかし、そうであったとしても、チョウが飛び始め、カエルが、ヒグラシが、キリギリスが鳴き始めたのに気づいて季節の変化にはっとする人間の営みは、昔も今も変わりません。そのことを伝統的な暦は私たちに教えてくれるのです。

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